今となっては昔
はじめて死を意識した私は
理性を保ちながら
それを受け入れる自信がありませんでした
未知の死に対する不安
そして肉体の苦痛
私は自分の死と上手に共生する術を
探し続けていたような気がします
Flat
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集中治療室では医療機器が発する電子音が常に聞こえていました
規則的で柔らかく 場の秩序はこの音によって保たれているようにさえ思え
或いは異次元への誘いにも感じられたのでした
私は退院すると 今度は自分の命と向き合うことで
この世界の在り様を紐解いてゆきたいと
カメラを握りしめながら 「手がかり集め」を再開しました
公 僕
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公僕とは公務員です
国民の利益に基づいた組織の意志を
具現化するために働いています
組織人ゆえに
彼らの個はベールの中です
私は「誰かが」ではなく
「誰が」が知りたかったのです
脳 死
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日本は
脳幹を含む脳全体の機能が失われた状態を
「脳死」としました
「脳死は人の死」なのか
1991年の取材当時
救命救急の現場は揺れていました
搬送された患者が
脳死状態に陥ることがあるのです
「脳死」は移植医療とも密接に関係します
脳死が「人の死」であるなら
移植のために心臓を摘出することも可能です
「まずは脳死という状態をきちんと知り
その上で議論を深めてほしい」
現場の医師は訴えました
臓器移植
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臓器移植
臓器移植
病などで機能しなくなった臓器を他者の臓器に交換することで
命をつなぐ医療があります。
「臓器移植」です
移植に使用されるのは
脳死状態を含めた死者の臓器や
健康な人にメスを入れて部分的に摘出した臓器です
臓器を商品として売買する現実があるとも耳にしますが
「臓器移植」は臓器の提供者の善意が前提の医療です
提供者が
我が身を切り 分け与える臓器は
パーツではなく「願い」なのだと
私は思うのでした
命のボーダーライン
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命のボーダーライン
命のボーダーライン
救命救急センターの現場には
「生」と「死」のボーダーラインがあります
たとえ心停止していても少しでも蘇生の可能性があれば
医師は躊躇なく患者の胸を開き
心臓をじかに手で揉んで鼓動の再開を促します
「蘇生マシーンになる」
現場医師の言葉です
ここでは医師が蘇生処置をやめた瞬間
患者の「死亡」が確定されることがあります
命の契約
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命の契約
命の契約
自衛隊に入隊する者は「宣誓書」に署名します
宣誓書の後半にはこうあります
「事に臨んでは危険を顧みず 身をもって責務の完遂に努め
もって国民の負託にこたえることを誓います」
命令遂行に命をささげる覚悟を求められるのが
自衛官の仕事なのです
政治家の肖像がある風景
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政治家の肖像がある風景
政治家の肖像がある風景
風土は人を育むと言います
政治家も例外ではありません
私は何気ない風景にある「政治家」たちを写真に収めながら
自分の日本地図を創るがごとく
旅を続けました
100の名前
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100の名前
100の名前
日本を代表する工場地帯の人工島に
たくさんの野良猫がいます
捨てられた飼い猫やその子孫たちです
餌が満足になかったり病気が蔓延したりと
環境は悪化する一方でしたが
猫は増え続けました
島で働く夫婦が見兼ねて支援を始めたのは
猫が100匹を超えた頃でした
最初に夫婦は猫たちに名前を付けました
さばたん ヨーダ ぼさつ しょんぼり 天然くん……
野良猫は名前を得たことで可視化され
はじめて「人間社会」に認知されました
夫婦は言います
「今更いなかったことにはできませんよね」